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バドミントンデータ解析ブログ

バドミントンについて、しょーもないことも含めてデータ解析で遊びます。主にTwitter(@badiary09)に生息しています。

スコアリングシステムの変更は弱小国に有利

先に結論をタイトルに書いてみました.

BWF(世界バドミントン連盟)がスコアリングシステムをラリーポイント制21点3ゲームからラリーポイント制11点5ゲームに変更することを検討していて,その理由として

  • 競技時間の短縮
  • より試合を面白くする

ことを挙げています.このうち,競技時間についてはラリーポイント制の導入時から年々長くなっていることを以前に確認しました(はてなブログRpubs).

ところで,ルールの変更と言えば政治的な意図が含まれていることを疑いたくなりますね.仮に11点5ゲームに変更された場合,どの国に有利に働くのでしょうか,気になります.もうタイトルに結論書いたけど.

Magnification Effect

今回の調査にあたって重要なのは"Magnification Effect"と呼ばれるものです.ここでは適当に増幅作用と訳しておきますが,増幅作用とはテニスにおいて提唱された概念です(参考論文).

プレーヤーAとBがバドミントンで対戦しているとします.そして,どのラリーにおいてもプレーヤーAが勝つ確率がpであるとします.この時,Aの方が強い(p>0.5)ならばAがゲームを取る確率や試合に勝つ確率はpよりも更に大きくなります.これを増幅作用と呼びます.直感的には,「マッチポイントが多くなればなるほど,最終的に強いプレーヤーが勝つ確率が高くなる」というものです.

例えば,僕がLee Chong Wei(世界1位)と戦ったとします.1点マッチと21点マッチではどちらが僕の勝つ見込みが高いでしょうか.答えは1点マッチです.1点ならまぐれで勝てるかもしれませんが,21点もまぐれが連続することはほとんどありません.

スコアリングシステムによって増幅作用の大きさは変わるので,スコアリングシステムが変われば強者と弱者のどちらかが喜ぶわけです.もちろん,強者より弱者の方が勝率が高くなるなんてことはないですが.

勝率の算出

それでは実際に勝率を求めてみます.プレーヤーAとBが対戦していて,AとBはそれぞれサーブ時に p_A, p_Bの確率でラリーに勝つものとします.二つの確率を導入するのは,バドミントンがレシーバーに有利と思われるからです(関連記事).

ゲームは0-0,Aのサーブから始まるものとします.この時,スコアm-nを通過する確率を,その時Aがサーブする場合 S_A (m,n)とBがサーブする場合 S_B (m,n)に分けて考えます.これらはmとnに関する漸化式で求めることが出来ます.

 \displaystyle{
S_A (m,n) = p_A S_A (m-1,n) + (1-p_B) S_B(m-1,n)
}  \displaystyle{
S_B (m,n) = (1-p_A) S_A (m,n-1) + p_B S_B(m,n-1)
}

後は初期条件 S_A(0,0)=1, S_B(0,0)=0を使ってがしがし計算していき,最終的にAが勝っている状態の確率を全て足し合わせることでAがゲームを取得する確率(これを P_A ^{(g)}とします)を求めることが出来ます.

実際にはMathematicaで求めました.21点の場合の解の一部を見てもらえれば,手計算では不可能なレベルであることが分かると思います.最も高次の項は p_A ^{30} p_B ^{29}であり,適当に計算したのでは数値誤差で計算機ですら結果が正しく求まりません. f:id:tenjin7:20150306220125p:plain

 P_A ^{(g)}が分かってしまえば,Aが試合に勝つ確率を求めるのは簡単です.(面倒なので省略)

Aがゲームを取る確率のプロット

勝率を求めたので早速プロットといきたいんですが,その前に変数を新たに定義します.

 \displaystyle{
p_{+} \equiv p_A + p_B
}

 \displaystyle{
p_{-} \equiv p_A - p_B
}

前者は両者に共有したサーバー側の有利度合いを,後者は実力差を表します.変数を p_A, p_Bよりもこの二つにした方がプロットが見やすくなります.

さて,それではAがゲームを取る確率を見てみます.p+を固定してp-を動かしたものが以下の図です.

f:id:tenjin7:20150306221846p:plain

f:id:tenjin7:20150306221853p:plain

f:id:tenjin7:20150306221858p:plain

グラフは全てS字になっており,確かに増幅作用が存在することが分かります.また,21点3ゲームの方が11点5ゲームよりも増幅作用が強いです.当たり前ですね.

一方,p+を固定してp-を動かしたものが以下の図です.

f:id:tenjin7:20150306222333p:plain

f:id:tenjin7:20150306222340p:plain

どれもp+に対して単調減少しています.つまり,サーバー側が有利な競技であればあるほど弱者の勝つチャンスが増えるということです.点を取った方がサーバーになるということから,サーバーに有利なほど連続得点のチャンスが増え,勢いで勝ってしまう可能性が増えるということだと解釈できます.

Aが試合に勝つ確率のプロット

次に,本題であるAが試合に勝つ確率を見てみます.p+を固定してp-を動かしたものが以下の図です. f:id:tenjin7:20150306222830p:plain

f:id:tenjin7:20150306222836p:plain

f:id:tenjin7:20150306222842p:plain

Aがゲームを取る確率に比べると二本の曲線は接近していますが,それでもやはり21点3ゲームの方が増幅作用が強く,強者に有利であることが分かります.

一方,p+を固定してp-を動かしたものが以下の図です.

f:id:tenjin7:20150306223014p:plain

f:id:tenjin7:20150306223021p:plain

両者の実力が拮抗している時ほど二本の曲線の差が強くなりました.つまり,実力の近い選手同士の対戦ほどスコアリングシステムの改正の影響を受けやすいということです.

結論

11点5ゲームは21点3ゲームに比べて弱小国にプラスに働きます.政治的な意図を深読みするのなら,アジアの勢力が強い状況にヨーロッパ勢力が危機感を抱き,試合時間の短縮という大義名分もできて丁度良いのでスコアリングシステムの変更に向けて動いている,といった感じでしょうか.

今後の課題

本当はサーブ制15点3ゲームも比較対象に入れたかったのですが,勝率の計算に複雑な無限和が入ってきたので計算を諦めました.誰か助けて下さい.